先日、新聞などの報道で、「遺言控除」という話しが出ていました。それによると、自民党の「家族の絆を守る特命委員会」(古川俊治委員長)は平成27年7月8日、遺言に基づいて遺産を相続すれば残された家族の相続税の負担を減らせる「遺言控除」の新設を要望する方針を固めた。その目的としては遺言による遺産分割を促し、相続をめぐるトラブルを防ぐということのようです。今後、党税制調査会に提案し、2018年までの導入をめざすそうです。
相続で遺産の分け方などを巡って相続人間で争いになる、いわゆる「争族」問題の予防策として「遺言書」の活用は非常に効果があります。しかし、公正証書遺言の作成件数は平成22年度には8万1984件。また、家庭裁判所での遺言状検認件数は、平成22年度には1万4559件です。ちなみに平成23年の死亡数は125万3463人ですから、遺言書の普及率はまだまだ1割にも満たないことになります。
生命保険の加入率が9割近いことを考えると、同じく本人が死ぬ事を前程としてリスクを保全する目的のものであるにもかかわらず、何故にこうも普及率に違いがあるのかと思いますが、生命保険の場合、大手や外資の保険会社があり、代理店があり、そのような業界の人達が、日夜しのぎを削って営業活動を行なっています。かたや、遺言書の場合、大手企業では信託銀行などの店頭でその名前を見かけるくらいで、あとは、個人事業主である士業が個別に細々とお勧めしている位ですから、当然といえば当然かもしれません。
しかし、この遺言書、適切な使い方をすれば、実は非常に有効かつ有益なものです。実際に巷で見聞きする、相続争い、「争族」などと揶揄されるようなものの大半が、遺言書を残していれば防げる事例なのです。
遺言を書いておいた方が良い事例は沢山ありますが、代表的なものの一つが子供の居ない夫婦です。このような事例で、夫婦の間では例えばご主人が、自分亡き後自宅不動産や預貯金等全ての財産を、長年苦労をかけた妻に残したいと思っていても、遺言書が無く、かつ、ご主人の兄弟姉妹など妻以外の法定相続人がいる場合、妻の法定相続分は全体の4分の3で、兄弟姉妹の法定相続分は4分の1です。ご主人の想い通り妻が全てを相続する為には兄弟姉妹全員の合意を得て、妻が全て相続するという内容の遺産分割協議書に署名捺印(実印・印鑑証明書添付)をもらわなくてはなりません。
例えば、遺産総額が1億円で、その内訳として、自宅の相続税評価額が8500万円、預貯金等が1500万円だったとします。それぞれの法定相続分による按分は妻が7500万円、兄弟姉妹が2500万円です。この内容で兄弟姉妹が法定相続分を主張して譲らなかった場合、預貯金等を全て兄弟姉妹に渡しても1000万円足りません。そうなると、妻はその1000万円をどこかから借りてくるか、住み慣れた自宅を売却して換金するしかなくなってしまいます。
しかし、遺言書で、妻に全ての財産を相続させると記載しておけば、兄弟姉妹には遺留分(※)がありませんので、ご主人の想い通り、全ての財産を妻に相続させる事ができます。
このように、遺言書の活用によって、遺産相続での揉め事を回避したり、被相続人ご本人の想いを確実に実現することが可能になる事例は他にも沢山あります。
今回話題になった遺言控除の制度は、このような遺言書の持つスムーズな相続を実現したり、遺産争いを未然に防止する機能に着目して、予め遺言書を準備した人の相続には税制上の優遇措置を付与しましょうと言う事のようです。
今後このような制度が実際に施行されて、是非、遺言書を皆さんがもっと活用されるようになれば良いなと思います。
※遺留分
遺留分とは、亡くなった方が不平等な遺言を遺していたような場合であっても、兄弟姉妹以外の法定相続人が主張して取得できる取り分のことです。例えば、亡くなった方に妻と子供が一人いた場合に、遺言書に子供に全て相続させると書いてあった場合でも、妻は自分の遺留分(4分の1)を主張(遺留分減殺請求)して取得することができます。しかし、兄弟姉妹にはこの遺留分がありません。
相談事例(遺言を書くメリット)http://www.j-ssa.net/q12/