【質問】相談者 大田区 60代 女性 K様
数年前、父が亡くなり実家で母が単身暮らしていましたが先日亡くなりました。葬儀は私が済ませましたが、兄が10年以上音信不通で葬儀にも参列しませんでした。兄弟は兄と私の二人です。遺言などは有りませんが今後、母の遺した遺産を分けるにあたってどのような手続きが必要でしょうか?
【回答】K様のご質問の件、遺言などは無いとの事ですので亡くなったお母様名義の預貯金、有価証券、不動産などを相続するためには相続人全員による遺産分割協議を行わなければなりません。相続人はK様とお兄様の二人という事ですがそれを確定させるためにはまず亡くなったお母様の生まれてから亡くなるまでの戸籍と法定相続人全員の戸籍が必要になります。
ちなみに、日本の戸籍制度は明治5年に始まりました。この年の干支が申年だった事から「壬申(じんしん)戸籍」とも呼ばれています。この時の編製単位は「戸」でいわゆる家長などの言葉に代表される「家」制度の時代です。その後明治19年に除籍制度など新しい制度を盛り込んだ書式になりましたが相変わらず「家」を単位に、戸主を中心として、その直系・傍系が記載される戸籍でした。そして明治31年には新たに「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」の欄が設けらた書式になりました。その後大正4年に「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」の欄が廃止され、戸主の事項欄に記載されることに変り、昭和23年には「家」制度が廃止され、戸籍は、夫婦とその子を基準として編纂されることになりました。これが、現在の様式の戸籍です。 ただし、この時にすべての戸籍を新しい様式に変更することは難しかったので大正4年式の戸籍は、新法改正から10年経過して改製されるまでの間、新法の規定による戸籍であるとみなされていました。その後、昭和32年法務省令第27号により、順次、新しい様式に改製されていきました。 その後平成6年法務省令第51号により、それまで紙台帳であった戸籍が現在のコンピュータ戸籍になりました。このように日本の戸籍制度は6度の改正を経て現在に至っていますので、相続手続きで戸籍を収集する際も制度の改正に伴って閉鎖された従前の戸籍(改製原戸籍 ※一般的に、「かいせいはらこせき」と読みます。)も収集して行きます。その場合、それぞれの年代で記載方法や制度が違いますので見落としが無いように注意しなければなりません。
K様とお兄様も婚姻前まではお母様と同じ戸籍に入っているはずですのでK様とお兄様については婚姻後、親の戸籍を出て配偶者又は自分が筆頭の戸籍になってから現在までの戸籍を収集して行きます。その作業の中で戸籍の附表と言って本籍だけではなく住所地の変遷を記録したものがありますのでそれを頼りにお兄様の現在の住所地を探せる可能性があると思います。
戸籍の収集については、もしご自分でなさるのに不安がある場合、弁護士、司法書士、行政書士などの国家資格を持った専門家に依頼されると各専門職は正式に依頼を受けた業務についてご本人からの委任状無しで戸籍や住民票の請求が出来る職務上請求という権限を持っていますのでK様がご自分であちこちに請求しなくてもスムーズに必要な全戸籍の収集を行ってくれると思います。また、遺産分割協議書の作成や各金融機関などの手続きも代行してくれますので安心です。
前記の方法でお兄様の現在の住所が特定で来たら一度お手紙などを書いて電話などでの連絡を促されると良いと思います。連絡が取れたら状況を良く説明して焦らず時間をかけて話し合いをされて合意が得られたら遺産分割協議書を作成して印鑑証明書添付で実印捺印、署名を行います。また、戸籍の附表などで判明した最終住所地にお兄様がお住まいでなく本当に所在不明の場合、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行い、選任された不在者財産管理人がお兄様の代わりに遺産分割協議に参加して相続手続きを進める事になります。