先日、相続の分野で今後大きな意味を持ちそうな判例変更がありました。遺産の中の預貯金の取り扱いについて、2004年の最高裁判例では、原則、預貯金は当然分割され遺産分割の対象にならないとしていました。これによって、例えば、相続人の中で故人の生前、多額の生前贈与を受けている相続人がいた場合、遺産分割がとても不公平なものとなる問題点も指摘されていました。例えば、1000万円の預貯金を遺して亡くなった故人の相続人が2人いて、法定相続分はそれぞれ2分の1とします。そのうちの1人は生前贈与で1000万円の贈与を受けていた場合、生前贈与を受けていない相続人が遺産の預貯金1000万円を全て相続すればそれぞれ1000万円を故人から受け取る事になり平等な気がします。ところがこれまでの判例では、この場合でも預貯金は遺産分割の対象ではないので故人が亡くなった時点で当然に法定相続分に従い分割されるという事になります。そうすると預貯金は2分の1の500万円をそれぞれ相続するという事になり、1000万円の生前贈与を受けていた相続人は1500万円、受けていない相続人は500万円という極めて不公平な遺産分割になってしまいます。
これについて、実際の遺産分割の話し合いや調停などでは、当事者間の合意により預貯金も含めて遺産分割を行うということが実務上行われて来ました。今回、最高裁大法廷は決定理由で「遺産分割は相続人同士の実質的な公平を図るものであり、できる限り幅広い財産を対象とするのが望ましい」と指摘して「預貯金は遺産分割の対象とするのが相当だ」と結論づけました。これにより、より平等な遺産分割が可能になる実務に則した判例変更が行われました。
実際の遺産分割の話し合いの中でも、遺産の中の預貯金は生前贈与や寄与分などによる相続人間の不公平感を解消するための緩衝材として使われるケースが多く、今回の判例変更により少しでも相続による親族間のもめ事が減れば良いなと思います。でも、一番良いのは遺された遺族が自分たちで話し合いをしなくて済むように、ご本人がお元気なうちに遺言をのこしておくことであるのは言うまでもありません。