【質問】相続した不動産を売却しようと思っています。
相談者 世田谷区 60代 男性 T様
先月父が亡くなりました。遺言などは無く、父の遺産は自宅とアパートの2件の不動産、あとは預貯金が1200万円ほどあります。相続人は私と弟の二人です。私は父と自宅で同居しておりましたので自宅を相続して、アパートは弟が相続し、預貯金は弟と半分ずつに分けようかと思っています。先日、弟が近所の不動産業者に自分が相続する予定のアパートについて相談した所、相続税の納税期限が相続発生から10か月なので、その期限が来る前に早く売却した方が良いとアドバイスされたそうです。私も弟もあまり相続の事には詳しくなく知り合いにも詳しい人がいないのでどうすれば良いか教えて頂けますでしょうか。
【回答】
T様のご相談のようなケースでは、相続不動産の売却は売るタイミングや物件の選択を間違えると税引き後の手取り金額に大きな差が出る事があります。各種制度の適用要件や相続税、譲渡課税の問題などを総合的に考慮して進める事が大切です。 仮に設定をお父様が亡くなり、遺言等は無し、相続財産は下記の3種類の財産、相続人はお父様と同居するT様と数年前に建売住宅を購入して隣町に住むT様の弟さんの二人とします。
(相続財産の内訳)
1.お父様が4年前に7000万円で取得したアパート
相続税評価額 土地6000万円 建物1000万円 敷地面積 132㎡
2.お父様が代々所有していた敷地に建つ自宅
相続税評価額 土地7000万円 建物0円 敷地面積165㎡
3.お父様の預貯金などの金融資産約1200万円
例えばこのような前提条件のケースで、自宅はT様が、アパートはT様の弟さんが相続して、金融資産は仲良く半分に分けることにしました。アパートを相続した弟さんが納税資金確保のためにアパートを売却するとしたらどのタイミングが良いでしょうか?
この場合、まず考えなければならないのは譲渡課税の問題です。土地建物を売却したときの譲渡所得については譲渡した年の1月1日現在の所有期間によって5年以下が短期、5年超が長期というふうに区別され、税率も短期が39%(所得税30%・住民税9%)、長期が20%(所得税15%・住民税5%)と大きな差があります。
例えばこのようなケースでは、相続税の納税期限などを考えて相続発生から10か月以内に売ると考える方も多いと思います。しかし、この場合、アパートはお父様が4年前に取得したものですから、相続発生から10か月以内でアパートを売却した場合、譲渡課税の税率が短期譲渡の税率になってしまう可能性があります。ですから、あえて相続発生から10か月経過後、きっちり所有期間が長期譲渡の要件に当てはまる期間経過してから売る方が税引き後の手取り金額がかなり多くなります。
また、次に検討しなければならないのは相続税の問題です。相続税の納税が必要なケースで相続財産の中に不動産がある場合、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」いわゆる小規模宅地特例の適用が受けられるかどうかは非常に大きなポイントです。
特定居住用宅地等では敷地の330㎡までの部分について課税評価額を80%の減額、アパートなど貸付事業用宅地等では敷地の200㎡までの部分について50%の減額を受けることが出来ます。ただし、設例のようなケースで、もし、相続発生後10か月以内で売ってしまうと小規模宅地特例の適用要件の中に、「その宅地等を取得した親族が、相続開始時から申告期限まで引き続き保有し、かつ、その貸付事業の用に供している場合」という保有要件がありますので残念ながら小規模宅地特例の適用が受けられないという事になってしまいます。
このように、譲渡課税や相続税などの検討をしないで、相続した不動産を安易に売却してしまうと、税引き後の手取り金額にかなり大きな差がついてしまいます。また、このような要素を勘案しないで行った遺産分割では、一見平等のように見えても最終的にかなり不公平な手取り金額になるケースもあり、注意が必要です。
※不動産の譲渡課税に関して復興財源確保法の規定により、平成25年から25年間は基準所得税額に2.1%の復興特別所得税が上乗せされるため、短期で39.63%、長期で20.315%となります。また、譲渡した年の1月1日における所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合譲渡所得の内6000万円以下の部分については14.21%の税率となります。
blog記事 あるから揉める不動産・・ http://www.j-ssa.net/blog_20150824/