民法第1004条1にこのような条文があります。「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。」とあります。遺言はそれを書いた遺言者の最期の意思を尊重しようとする制度です。そのため遺言に関しては民法でかなりの条文を割いてその書き方や方式、効力、執行などについて細かく規定を設けています。その中の一節が前出の条文ですが、この遺言の検認という制度、主な目的として遺言書の偽造、変造を防止するための検証手続きという側面があります。検認の申立てができるのは、遺言書の保管者がある場合はその保管者。保管者がいない場合は遺言書を発見した相続人ということになります。これら検認の申立てが出来る人には申立てをする義務がありこれを怠った場合、過料に処せられます。また、たとえ遺言書の内容が自分に不利なものであったり、その内容に納得が行かない場合でも、自身の不当な利益を得る為に故意に遺言書を隠したりした場合、相続能力及び受遺能力を失う事になります。このような遺言書の検認に関する規定をみて行くと遺言書って大変だなと思われるかもしれませんが、同じ民法第1004条2にはこのような条文があります。「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。」つまり、家庭裁判所の検認手続きが必要な遺言書は公正証書による遺言書以外の遺言書ということになります。では何故公正証書で作成した遺言書は検認手続きが不要なのでしょうか?
私も仕事上お客様からの依頼で公正証書遺言の原案を作成する機会が数多くありますが公正証書で遺言書を作成される場合、まず、遺言者ご本人から自分の死後、遺産をどのようにしたいか?お墓や納骨などについてどのようにして欲しいか?など遺言書に記載する内容について面談してヒアリングを行います。その上で民法の規定に従って遺言書の原案を作成します。その際に必要な戸籍や住民票などの取得も代行し、証人の手配、公証役場との打合せなどもこちらで全て行いますので遺言者ご本人は印鑑証明書の準備だけして頂ければOKです。そして、遺言者ご本人が公証役場に出向く、または、公証人に遺言者の居所に来てもらう、何れかで公正証書の遺言書を作成します。そしてその原本は公証役場で原則20年間保管されます。ただし公証人法施行規則に20年の保管期間が満了した後でも、特別の事由により保存の必要がある場合は、その事由のある間は保存しなければならないという規定が存在しますし、遺言書は遺言者が死亡した時にその効力が生じるわけですから、通常は20年間経過後も公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるというのが実情です。具体的な保管期間については、各公証役場で取扱いが異なりますが、例えば、遺言者が140歳になるまでと定めている公証役場もあるようです。
このように、遺言書を公正証書で作成する場合、そもそも原案の作成や公正証書の作成に専門家が複数関与し、遺言者ご本人やその意思の確認、民法の規定を踏まえた遺言書の内容が担保されていますし、万一、紛失や偽造などの場合でも遺言者本人、本人の承継人、本人の委任状を持った代理人などであれば公証役場で謄本の交付を請求できますので原本との内容の同一性も関係当事者が容易に確認する事が可能です。そそらくその辺りが公正証書で作成した遺言書は検認手続きが不要とされている理由ではないかと思います。
最近は終活分野でエンディングノートなど様々なものが注目を集めています。エンディングノートなども自分の人生の締めくくりを考える上で有益なツールだと思いますがエンディングノートなどでご自身の人生の締めくくりについて考えをまとめた後は、その内容を反映させた遺言書を公正証書で作成しておくというのも良いかもしれません。