【質問】
相談者 横浜市 80代 女性 K様
自宅を売却して施設に住替えを考えていますが自宅不動産の名義人である主人は最近認知症の症状が進んでしまい、最近では私や子供達の事も解らなくなってしまっています。このままの状態では不動産の売却が出来ないと聞きましたがどのようにすれば良いのでしょうか?
【回答】
K様のご相談のようなケースでは、不動産の名義人であるご主人が認知症で判断能力が低下している常況という事ですから、不動産などの売買に際してご主人が当事者として契約を締結する事は出来ません。これは契約が有効に成立する為には契約当事者に「意思能力」がある事が必要とされる為です。意思能力と言うのは不動産売買に限らず様々な事に関して、その契約が自分にとって損なのか得なのか?その契約を締結する事によってどのような結果がもたらされるのか?などの判断がちゃんと出来る能力の事です。
ですからK様のご主人のように認知症等で意思能力が低下している方の場合、成年後見人と言ってご主人の代わりにそのような判断をしてくれる人を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。成年後見制度には「任意後見」と「法定後見」の二つの制度に分かれます。任意後見というのはご本人の判断能力が失われる前にあらかじめ将来認知症などで自分の判断能力が低下した場合この人に後見人になってもらいたいという相手との間で任意後見契約を締結しておくというものです。任意後見契約に際しては必ず公正証書で契約を締結する必要があります。もう一つの法定後見とは任意後見契約などの準備が無く既に認知症などで判断能力が低下してしまった場合に家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらうというものです。申し立てが出来るのは4親等以内の親族またはそのような身寄りのない方の場合市区町村長が代わりに申立てをする事も出来ます。K様のケースではご主人は既に判断能力が低下して、かつ、任意後見などのご準備もされていないとの事ですので、法定後見の申し立てを行い家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう必要があります。成年後見人が選任された後、ご自宅の売却が可能になりますが、売却に際して自宅などの居住用財産の処分には家庭裁判所の許可が必要になりますので通常の不動産売買に比べて時間と手間が余計にかかる事になります。最近ではご本人がまだお元気なうちに任意後見契約と併せて財産管理委任契約を公正証書で作成して将来の不安に備える方も増えています。
財産管理委任契約とは、信頼できるお身内の方などに役所や銀行、郵便局などの窓口に行って代わりにお金の出し入れや各種手続きをサポートしてもらったりするための契約です。最近はご本人確認などが厳格になり、このような契約を締結しないで誰かが代わりにお手伝いしようとすると一々委任状を用意したり、委任状を持って行ってもスムーズに対応してもらえなかったりと、お願いする側もされる側も非常に負担が大きいのでこのような契約で将来の不安に備えておくのはとても有効だと思います。