皆さん、実印はお持ちですよね? 「実印」は、市区町村で印鑑登録をした印章のことで、例え、100円ショップで買った安物のハンコであっても、その印章を登録すればそれがその人の実印となります。
印鑑登録すると、印鑑カードが発行され、登録した市町村で印鑑証明(印鑑登録証明書)を発行してもらうことができます。
例えば、金融機関でお金を借りたり、不動産を売却したり、人生の中でとても重要な契約書に押印した印影と印鑑証明とを照合することによって、実印で押印したことが分かり、実印で押印されたものは、本人が押印したと推認されることになります。
印鑑証明の添付を要求されている一定の手続き(不動産登記手続など)を除いて、法的には実印も認印も効力は同じですが、重要な書類では、後々の紛争防止の為に、実印を押印することになります。
このようにとても重要な、印鑑登録ですが、実は、その根拠になっているのは、国の「法律」ではなく、市区町村の「条例」です。
なので、誰がどういう手続きで印鑑登録をすることができるか、という問題は、全国一律ではなく、各市区町村によって違います。
例えば、印鑑登録をすることができる年齢についても、市区町村によって異なり、14歳からという所もあれば、15歳という所もあり、その年齢に達しない者は、印鑑登録をすることができません。
そしてもうひとつ、一般的に印鑑登録をすることができないのが認知症などで意思能力に問題があり、後見開始の審判を受けた「成年被後見人」です。 この、成年被後見人になると、原則として法律行為を単独で行うことが出来なくなります。そこで、本人の権利利益を守るために、代わりに契約などの法律行為を行なうのが「成年後見人」です。
実印押印で印鑑証明の添付が必要な手続きについても、法定代理人である成年後見人の印鑑証明が使われるので、本人(被後見人)の実印が使われることは無く、印鑑登録も必要ありません。
また、このような場合に成年被後見人の印鑑登録がされていると、印鑑証明を発行することができるため、悪用されるリスクもあります。そのような理由で、新たな印鑑登録はできない事になっています。
では、既に印鑑登録をしている人に後見開始の審判がなされ、成年被後見人となった場合、その人の印鑑登録はどうなるでしょうか。
例えば、東京都渋谷区の東京都渋谷区印鑑条例(昭和三十一年東京都渋谷区条例第七号)では、登録資格について以下の通り定めています。
(登録資格)
第三条 印鑑の登録を受けることができる者は、区内に住所を有し、住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号。以下「法」という。)に基づき住民基本台帳に記録されている者とする。ただし、満十五歳未満の者及び成年被後見人は、印鑑の登録を受けることができない。
(印鑑登録の抹消)
第十五条 区長は、印鑑登録者が次の各号のいずれかに該当する場合は、当該印鑑の登録を抹消しなければならない。
一 印鑑登録廃止の申請をしたとき。
二 印鑑登録証亡失の届出をしたとき。
三 区外に転出したとき。
四 死亡したとき。
五 氏又は名を変更したため登録してある印鑑が第七条第二項第一号に該当することとなつたとき。
六 前各号に定めるもののほか、印鑑登録者について抹消すべき理由が生じたとき。
既に印鑑登録をしている人が成年被後見人になった場合、第15条六の抹消すべき理由に該当する事となり印鑑登録が抹消されます。
但し、このあたりの事務の取り扱いは、市区町村によって異なることもあり、後見人がついているケースでも、印鑑証明書が発行された事例もあるようですので注意が必要です。