最近は、終活ブームでエンディングノートや遺言などに注目が集まっています。そういったテーマで様々なセミナーなども開催されていますのでそこで知識を得てもうすでに準備したという方も多いのではないでしょうか?
遺言書などはその内容にご自身の財産に関する事や親族関係に関する事など重要な個人情報が記載されているとても大切でデリケートな書類です。例えば、ご自身で作成された「自筆証書遺言」の場合、その作成過程に第三者が関与していませんので、折角用意しても紛失してしまったり、あるいは、あまりにもしっかり隠し過ぎていたためお亡くなりになった後、誰にも発見されずにタンスと共に処分されてしまうということも考えられます。
そうならない為には、例えば作成に際して専門家に相談してご自分の希望する内容に基づいて原案を作成してもらい、それを清書する形で「自筆証書遺言」を作成し、その専門家を遺言執行者に指定した上で原本を預かってもらうと良いでしょう。そうすれば、自筆証書遺言の場合に考えられる様式の不備による遺言の無効や誰にも発見されない、あるいは偽造や破棄と言ったリスクを回避出来ますし、遺言執行者を指定しておく事で、煩わしい相続手続きをご家族に強いることも無くなります。
一方、公証人に依頼して作成する「公正証書遺言」や「秘密証書遺言」の場合は公証役場に保管されますので、紛失したり偽造や破棄といったリスクは回避することができますが、そもそも、ご自身が遺言書を作成したこと、そして遺言書が公証役場に保管されていることは、誰かに伝えておかなければ、折角準備したのに誰にも気付いてもらえないという事も考えられます。
公正証書遺言の場合、その方が作成した遺言があるかどうかわからない場合でも、相続人などが公証役場に問い合わせれば、遺言書の所在などがシステムに登録されていて検索出来るシステムになっています。ですから、もし、ご家族がお亡くなりになって、遺言書の有無が分からない場合、相続人の方が公証役場に問い合わせをしてみると良いでしょう。
また、自筆証書遺言を作成されて、大切な書類だからという事で貸金庫に保管される方もいらっしゃいます。たしかに、銀行の貸金庫などは自宅よりも安心安全な保管場所のような気がします。しかし、気を付けなければならないのは亡くなられた方が契約していた貸金庫はその方が亡くなられた場合、銀行の預金口座などと共に凍結されてしまうという事です。以後、相続人全員の同意がなければ貸金庫を開ける事が出来なくなってしまいます。
相続人全員の同意と一言でいうと簡単そうですが、正式な相続手続きでは、まず、相続人全員とは誰と誰の事か?を確認するために亡くなられた方の生れてから亡くなるまでの全戸籍、また、お子様がいらっしゃらない方の場合、その方の親の生年まで戸籍を遡り、さらにご兄弟の現在まで、あるいはご兄弟が先にお亡くなりになっている場合、甥や姪などご兄弟の子の現在までという非常に広い範囲の戸籍を収集しなければならなくなります。その上で、確定した相続人全員の印鑑証明書を用意して、全員に立ち会ってもらうか又は立ち会えない相続人について委任状などを用意して初めて開けてもらえるという、非常に大変な作業になります。また、行方不明の相続人が居たり、全員の合意や協力が得られない場合はさらに大変な状況になります。そして、そのような苦労をして開けてもらった貸金庫の中に自筆の遺言書が入っていて、そこに、「遺される家族が煩わしい相続手続きに悩まされる事がないようにこの遺言書を書きました」などと書いてあっても正に後の祭りです。
また、自筆証書遺言の場合、さらに、そこから裁判所による「検認」という手続きを経ないと効力を発生させることが出来ません。検認手続きは、場合によって1か月程度時間を要する事もありますので、せっかくご家族の事を想って遺言を準備されるのであれば、保管場所の心配も無く、検認手続きも不要な公正証書で作成して、この場合も、ご家族の手を煩わせないように、遺言の原案作成を依頼した専門家などを遺言執行者に指定し、遺言公正証書の正本などを預かってもらうようにしておけば良いのではないでしょうか。