ご夫婦で老人ホームに入居されて、入居時に、ご主人の預貯金や、ご主人名義の自宅を売却したお金で入居金を支払いその後ご主人がお亡くなりになった場合のお話です。 このようなケースで、ご主人の支払った入居金が生前贈与にあたると税務当局に認定され国税不服審判で争った事例があります。
そのケースでは「施設利用権付有料老人ホーム」に入居されたようですが、奥さんが主契約者、ご主人が追加契約者でご主人が奥さんの入居金のかなりの部分を支払ったようです。
その後、ご主人は3年も経たず他界。 相続税の申告では、ご主人負担の入居金には課税されないものとしてとして申告しませんでした。 しかし税務当局から入居金は相続開始前3年以内の贈与に当たり、相続税の申告漏れだとの指摘を受け、結局、国税不服審判所での争いとなりました。
奥さんは、入居金は老人ホームに夫婦で入居するためご主人が負担した費用なので、少なくとも贈与税が非課税になる「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの(相続税法21条の3第1項第2号)であり、相続税の申告に含めるべきものではない」と主張しました。
これに対して国税不服審判所は、以下のような点をあげて「利用権取得のための金員は社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認めることはできない」としました。
(1)入居金が高額である
(2)居室が広い
(3)共用施設にレストラン・ラウンジ・大浴場などが多数ある
(4)医療支援・食事サービス・生活助言・文化・レクリエーション支援などサービスが充実している、無料サービスもある
要するに、施設が豪華でサービスも充実して贅沢な施設なので「社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認めることはできない」とした訳です。
個人的には、贅沢や日常生活のレベルにも個人差があるとおもいますので、余計なお世話だという気もしますが・・。
例えばこのような事例でも、早めに対策を考える事ができたならば、自宅を売却する前に「贈与税の配偶者控除」2000万円と、贈与税の暦年贈与の非課税枠110万円を利用して、2110万円の土地建物の持ち分を奥様に非課税で贈与します。(※最終的な相続税の税率が非常に高い税率になることが予想される資産家の方でしたら贈与税を支払ってもう少し多く贈与して、それにより最終的な相続税の税率を下げた方がトータルの納税額でお得なケースもありますので非課税枠内で贈与するか超えて贈与するかはケースバイケースでご判断下さい。)
そして、贈与から5年以上経過すれば奥様の譲渡は長期譲渡になりますので、そこで自宅を売却します。
そうすれば、老人ホームに入居する際のお金の出所も奥様の自己資金という事になりますので、その後相続が発生しても生前贈与云々で相続税の申告漏れを指摘される事もなかったのではないかと思います。
このように、高齢者の住替えや不動産売買にはその後に発生する相続の問題や様々な制度の活用などを考慮した方が良いケースも多いと思います。 やはり、何事も早めに専門家に相談して適切なアドバイスを受ける事が大切です。