平成28年3月1日、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)で認知症の高齢者が列車にはねられ、鉄道会社に損害を与えた場合に家族が賠償責任を負うべきかが争われた訴訟の上告審判決が出ました。この裁判の発端となったのは2007年、愛知県の認知症の男性(91)が1人で外出した際に電車にはねられて死亡、JR東海が家族に対して、振替輸送費用など約720万円の損害賠償を求めたというものでした。1審では、同居していた妻の過失を認めたほか、20年以上別居していた長男にも監督義務があったとして、妻と息子の2人に全額の賠償を命じました。2審では、長男の監督義務を否定し、妻にだけ監督義務を認めました。
最高裁は1日の判決で、「同居する配偶者というだけで、監督義務があるとはいえない」「監督義務があるかどうかは、生活状況や介護の実態など事情を総合的に考慮して判断すべき」との基準を初めて示しました。そのうえで、今回のケースについて、妻は高齢で「要介護1」の認定を受けていたほか、長男は20年以上、同居していなかったことなどから、「監督することが可能な状況になかった」として、家族の賠償責任を認めず、JR東海の訴えを退け家族側の主張が全面的に受け入れられる判決となりました。
これについて、個人的にはこの事件の報を聞いてからこのような認知症高齢者の老々介護で家族に監督責任を問うのは酷だなぁと思っていましたので、1審、2審の判決に関しては正直家族側には厳しい判決だなぁ・・という印象でした。ですから、1日の最高裁判決は良い判決が出たと思っています。
今回の最高裁判決では、妻に対して妻を法定の監督義務者としたうえで、「監督義務を怠ったとはいえない」として免責する手法では無く、そもそも法定の監督義務者ではないとしたところが注目されます。今後、認知症患者が起こした第三者に対する加害行為について監督義務者の地位を認めるためには、単に法令上監督義務が記載されているだけではなく、「現実かつ具体的に加害防止のための監督ができるか」という面から具体的に判断するとした点が重要だと思います。
このようなケースは今後益々増えると思われます。もし今回のような鉄道会社ではなく個人などの第三者に損害を与えた場合に、どのような判断になるのか、また、今回のようなケースも含めてこのような事案での損害に対する公的な救済制度の創設なども今後考えて行くべき問題ではないかと思います。