高齢者の自宅売却のお手伝いをしていると、認知症などでご本人の意思能力に問題は無い場合でも、お体が不自由で契約や決済の場にご本人が立ち会って頂けないケースも多々あります。その場合売買契約の締結や残金決済のときにお子様やご親族など代理人の方に代わりに立ち会って頂いたり、あるいは売主様、買主様は動かずに持ち回りで契約を締結したりします。
ご本人が代理人の方に、契約や決済の立会いをお願いする場合は、ご本人から受任者宛ての委任状が必要になります。委任契約は当事者の一方が法律行為をする事を相手方に委託し、相手方(受任者)がこれを承諾する事によって成立する「契約」(民法第643条)ですから厳密に言えば、委任者、受任者双方が署名押印する形式が望ましいのですが、一般的な委任状の書式は受任者の住所氏名の記載が印字されており、署名押印は委任者のみが行なう書式になっています。
これは、受任者本人は契約や決済の場に立ち会っているという前程で、受任者の本人確認が出来て、その場で受任の意思確認が出来れば問題ないという趣旨だと思います。しかし、後日書類として一目で疑義が生じないという観点で考えれば委任者、受任者双方自書実印押印で印鑑証明添付というのが確実ではないでしょうか。
また、代理人契約の際の契約書や重要事項説明書への署名押印の書き方ですが、任意代理人の場合と法定代理人(未成年者が当事者の場合など)の場合で書き方が違います。
任意代理人の場合、契約書署名欄の左側に委任者の住所氏名を記入します。その際、委任者の押印は不要です。そして、署名欄の右側に代理人(受任者)の住所氏名を記入します。こちらは押印が必要です。(その際、代理人の住所氏名の上部に委任者の名前を書き〇〇代理人と記入します)
それに対して、法定代理人の場合、契約書署名欄の左側に委任者の住所氏名を記入し押印が不要である所までは同じですが、署名欄右側に代理人(受任者)の住所氏名を記入する際に、父母連名で、親権者 父 〇〇、親権者 母 〇〇と記入し其々押印します。何故、未成年者の法定代理人の場合は父母連名かと言うと、未成年者の法定代理人は親権者ですが、親権は原則として父母が共同して行使しなければなりませんので(民法818条3項)、原則、父母双方の署名押印が必要だという事です。
また、代理人による契約で委任状があっても、所有権移転登記の手続きに際しては、必ず、担当する司法書士の先生に本人面談して頂き、登記委任状など必要書類への署名捺印やご本人の意思確認などをして頂く事が必要です。