親はいくつになっても子供の事が可愛いものです。ですから生前贈与で親が子供の住宅取得資金を援助する話は良く聞きます。相続税を計算する場合、税法上、相続発生3年以内の生前贈与については相続財産に持ち戻して(計算上一旦戻して)計算しなければなりません。しかし、それ以前の贈与分については既に贈与税を納付して被相続人の財産から切り離されていますので、相続税の課税対象となる資産には含まれません。
これに対して、法律(民法)上の考え方は違い、3年以内、3年以前問わず、被相続人(亡くなった親など)から相続人(遺産を相続する子など)が生前贈与などで特別に利益を受取って居た場合、遺産分割の前提となる相続財産には、一旦その生前贈与分を持ち戻して遺産の総額を確定し、その総額に基づいて相続分を計算しなければなりません。これは「遺留分」の計算についても同じです。(※遺留分とは相続人に一定割合保証された遺産の取り分の事で例えば、複数の相続人がいるケースで遺言の内容がそのうちの1人の相続人に全ての遺産を相続させると記載されていてもその内容が他の相続人の遺留分を侵害していれば、遺留分減殺請求という手続きを行えば侵害された遺留分を取り戻すことが出来るというものです。)
これは、相続における相続人間の不公平感を是正するための制度で、この持ち戻しに該当する生前贈与などの事を「特別受益」と呼び、それらを遺産に含める事を「特別受益の持ち戻し」と呼びます。 「特別受益」に該当するのは、学費、生活費、住宅取得資金、事業の援助などを含んだ「生計の資本」としての贈与、婚姻・養子縁組の為の贈与、遺言による遺贈された財産とされています。(※特別受益の価値は「相続が発生した時点での価値」となります。例えば、3000万円の土地の生前贈与を受けたが、相続発生時に値上がりして5000万円になっていた場合、その土地の価値は5000万円という事になります。)
「特別受益」が自らの相続分を超えていたとしても、他の相続人に超えていた分を支払う必要はありませんが、もし他の相続人の遺留分を侵害していた場合には、他の相続人の遺留分減殺請求によって、特別受益者は遺留分を侵害した分を支払う事になります。もし、被相続人が遺言で特別受益の持ち戻しを免除するという意思表示をしている場合は、特別受益を持ち戻さない事も可能ですが、その場合も遺留分については制限を受けます。
良く、遺言は将来子供達が遺産争いにならない為の「転ばぬ先の杖」とか「家族に対する思いやり」であるとか言われています。しかし、遺言の内容が他の相続人の遺留分を侵害するものであり、相続人間でそれに対する合意形成がなされていない場合。それがかえってもめ事の原因になることもありますので注意が必要です。
相談事例(遺言を書くメリット)http://www.j-ssa.net/q12/