3大都市圏の特定市において、その相続財産の中に生産緑地地区の指定を受けている土地がある都市型農家にとって相続の問題は非常に頭の痛い問題です。
もし、相続が発生したときに営農を継続する農業相続人がいれば相続税の納税猶予の手続きを行い、農業投資価格による評価(東京都でも10アールあたり田:900千円、畑:840千円)で計算し、通常の相続税評価額との差額に対応する相続税額が猶予されるので特例農地等に係る相続税のほとんどを猶予してもらうことが出来ます。
しかし、都市型農家の中には後継者がいないため、相続に際して営農の継続を前提とした納税猶予制度の適用を受けられないというケースもあります。
その場合、物納するか土地を売却して納税するかという事になりますが、売却予定の土地が生産緑地である場合通常の不動産売買に比べて時間と手間がかかります。
生産緑地法第10条で定める買取りの申し出ができる事由は以下の通りです。
①生産緑地地区指定から30年を経過した時
②主たる農業従事者が死亡した場合
③主たる農業従事者に営農継続を不可能とさせる事故等が発生した場合
この3つの事由に該当する場合、「市町村長に対し、国土交通省令で定める様式の書面をもつて、当該生産緑地を時価で買い取るべき旨を申し出ることができる。」と定めています。
買取りの申し出をするには、相続人全員の同意が必要となりますので、原則、遺産分割協議が完了した後ということになりますが、全体の遺産分割協議に時間がかかるようなケースでは売却予定の生産緑地だけの一部分割協議書を作成し買取り申し出を行う相続人に所有権を移転するという方法をとる場合もあります。
生産緑地地区指定が解除されるまで、買取りの申し出から3ヶ月を要しますので、売却する場合はそこから農地転用の届出と売買契約を行なうことになりますが、生産緑地は原則500㎡以上の面積がありますので、各行政の開発指導要綱に基づく開発許可申請なども考慮すると買取りの申し出から最終の残金決済まで半年から1年を要するケースも考えられますので注意が必要です。
また、物納と売却とでどちらが徳かという判断は、物納の収納価格は基本的に相続税評価額という事になりますが、売買価格に関しては買い手の購入希望価格が確定しないとわかりません。
その場合、とりあえず先に物納申請をしておいて、売却価格が確定した時点で比較検討し売却の方が有利であれば、物納を取り下げて売却し、納税するという事にすれば良いでしょう。
また、相続税の納税が必要なケースでは、相続や遺贈で取得した不動産を相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内に譲渡した場合、譲渡した土地等に係る相続税額が取得費とみなされ、譲渡代金から控除される「相続税の取得費加算の特例」の適用が受けられますので、相続発生時は不動産売却の良いタイミングであるともいえます。
いざ相続が発生してからあわてない為には、ご本人がお元気なうちに財産の棚卸しを行い、将来相続になったときにはこの不動産を売却して納税資金に充てる、この不動産は誰に相続させる、その手続きは誰に依頼するなど、遺されたご家族が困らないように遺言書に書いておかれると良いでしょう。